スチュワードシップ・コードでは原則6において、議決権行使及びスチュワードシップ活動のディスクローズを求めています。
原則6
機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。
また指針では、活動の定期的な報告、議決権の行使活動を含むスチュワードシップ活動に関する記録の保持などを求めています。日本ではスチュワードシップ活動が始まったばかりでもあり、過去の蓄積も含めて十分な活動報告が出来ている運用会社はありませんが、英国の事例などを踏まえて実績を蓄積していくことが必要と考えられます。 今回もNAPFのスチュワードシップ・ディスクロージャーフレームワークに基づき、目指すべき水準をイメージするとともに、ベストプラクティスの1つとしてハーミーズEOSのディスクローズをお示ししたいと思います。
まず、NAPFのスチュワードシップ・ディスクロージャーフレームワークの評価基準を参考にしてみたいと思います(日本の運用会社から見た場合に意味のない部分などは適宜省略するなどしています)。活動報告の評価基準は顧客への報告頻度、内容と、透明性の高さとしてどのような内容のレポートをどのようにして公開しているか、第三者機関からのアシュアランスがあるかなどがこの原則に対する評価基準となります。
顧客への報告頻度としては、以下のような区分で評価します。
A:顧客への四半期報告の中でスチュワードシップ活動について説明を行う
B:顧客への年次報告の中でスチュワードシップ活動について説明を行う
C:顧客からの要請があった場合など、必要に応じて報告を行う
D:顧客あての報告はない
報告の頻度はスチュワードシップ活動をどのように管理しているかによっても変わってきます。四半期で報告を行う場合には、常に組織的に活動を管理する必要があります。ただ、少なくとも年次報告を出来る体制は整えていくことが重要と考えられます。
レポートの内容
A:実施したスチュワードシップ活動の具体的に証跡やケーススタディー、課題ごとの進捗、保有期間、ESGリスクの分析があり、スチュワードシップ活動の状況が顧客報告の過程で統合化されており、活動によって、ポートフォリオの価値がどのように上げるまたは価値の棄損をどのように防いでいるかなどが明確になっている
B:実施したスチュワードシップ活動の具体的に証跡やケーススタディーなどが示されている。現在行っている活動の概要が示されている
C:実施した活動の概要と成功事例が示されている
D:スチュワードシップ活動に関するレポートはない
レポートの内容もAのレベルを行おうとすると、投資哲学自体がスチュワードシップ活動にマッチしたものであることが必要です。NAPFが示しているレベルAは全ての運用会社に適用できるものとは考えにくいですが、1つの目標にはなるかもしれません。ただ、Bのレベルは今後日本の運用会社が目指すべきレベルと考えられます。日本でもGPIFが企業向けにヒヤリングを行うなど、運用会社の活動が実態を伴ったものなのかについてチェックが入ってくると考えられます。そのためにも、証跡の管理やケーススタディーを示していくことは重要でしょう。日本の運用会社で最も多いのはレベルCです。つまり概要と成功事例だけを示しているわけです。ただ、実際の場面ではエンゲージメントを行ったが、改善は困難と考えエンゲージメントをあきらめる場面もあるはずです。そういった判断もある意味では合理的と考えられるわけで、何が出来て何が出来ないのかということをディスクローズすることはスチュワードシップ活動の考え方を示す上で重要と考えられます。
次にこれらの活動をどれだけ透明性の高い方法でディスクローズしているかです。
開示レベル
A:投資先企業について、いつ、どんなテーマで、誰がエンゲージメントを行ったのか。顧客から見た場合に自分の投資している商品と関係があるのかどうか明確であること
B:どのような企業に対してエンゲージメントを行っているかが分かり、運用会社としてのスチュワードシップ活動のやり方が理解できる
C:運用会社のウェブサイトを見ると大まかな活動方針やアプローチが理解でき、エンゲージメントに関する質問に対する基本的な内容が整えられている
D:公開情報はない
スチュワードシップの受け入れ方針は、会社ごとに1つということになっています。しかしながら、様々な運用商品がある場合、自分たちが投資している運用商品の方針がわからないため、自分たちが投資している商品でどの様な活動が行われているのかがわかるようにしておくことが必要なのです。
エンゲージメントレポート
A:四半期ごとに重要なエンゲージメント活動については公開している
B:年度ベースで重要なエンゲージメント活動については公開している
C:顧客はエンゲージメントの記録を知ることが出来る
D:エンゲージメントの活動報告はない
エンゲージメントの実態について、ヒヤリングを受けることが多くなることを考えると、少なくともCのレベルを確保し、顧客からの要請にこたえられる状態にしておくことは重要です。また、そのような体制が整えば、適宜BまたはAの頻度でエンゲージメントレポートを開示していけば、自分たちの活動が正当に評価されることになるでしょう。
第三者によるアシュアランス
A:議決権行使とエンゲージメントプロセスについて独立した機関のアシュアランスがあり、そのことが示されている
B:議決権行使とまたはエンゲージメントプロセスについて独立した機関のアシュアランスがある
C:独立した第三者機関による検証を受けている
D:アシュアランスレポートはない
第三者機関によるアシュアランスは今後重要になってくる視点です。運用会社が自分たちの活動をアピールするだけでは、それがエンゲージメント活動と言えるのかどうかについての客観的な証拠がないからです。つまり自分たちの投資先が投資家との対話によって何らかのアクションを取った場合、特段の活動をしていなくても自分たちのエンゲージメントの成果とアピールする運用会社があるかもしれません。アセットオーナーから見た場合、そのような運用会社との差を分かりやすくするために、第三者機関によるアシュアランスが必要となるわけです。
なお、スチュワードシップ活動の開示は、運用会社ごとのスチュワードシップ活動方針によっても異なります。活動のやり方によっては、活動状況を詳細に開示し過ぎることが顧客のためになるとは限らないからです。
まずは、どのようにスチュワードシップ責任を果たすための活動を行っていくかの方針を示し、それに沿ってどのような開示を行っていくかを考え、継続的に活動状況を透明性の高い方法で行っていくことが重要です。
さて、スチュワードシップ活動の先進国である英国での開示事例を紹介しておきます。Hermes EOSはエンゲージメントに関して四半期と年度で報告を行っています。
それを見るとエンゲージメントのプロセスや考え方が非常によくわかるのですが、この開示の中で日本の運用会社にも参考にしていただきたいのは、それぞれのテーマごとにマイルストーンを設けて管理しているところです。このような管理の仕方をしていると、将来的にエンゲージメント活動のアシュアランスが求められた場合でも即座に対応することが可能です。また、エンゲージメントに関する知見を社内に蓄積していく上でも有用だと考えられます。マイルストーンの決め方やその証跡管理なども気になるところでしょうか、まずはそのような管理を行っていること自体が重要なのです。
それぞれの項目についてもケーススタディーという形で示しているため内容が大変分かりやすくなっています。
日本の運用会社のことを考えると、なかなか個別でここまでの開示を行うことは難しいと考えられます。しかし、社内ではこのような形で管理しノウハウを蓄積していくのは重要だと考えられます。
このような取り組みを継続していくことで、自分たちの運用から見て有効なエンゲージメントとはどのようなものなのかが掴め、外部に対しても効果的な説明が出来るようになるのではないでしょうか。
HermesのStewardship
Hermesの四半期報告資料
HermesのAnnual Report
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