残業ゼロへの働き方転換に対する日本電産永守会長のコメント


①残業ゼロへの働き方転換に対する日本電産永守会長の発言は単純明快で分かりやすく株主から見るとその改革が新たな成長につながることが期待できる。
②企業が行うべき変化は後ろ向きに対応するのではなく、積極的に変化を活かすことで企業価値向上につなげる発想が必要。

労働時間の短縮に対する企業の取組みが活発になっています。味の素や伊藤忠など先進的な企業は社長が強いメッセージを発信し積極的に残業を抑制し働き方改革に取り組んでいます。
その中でも、世界経営者会議2016で日本電産の永守会長兼社長CEOが述べている2020年の残業ゼロを目指した働き方の大転換に関するメッセージは株主から見た場合、大変共感の持てるものではないでしょうか。

一般に、労働時間が減ると生産物は減り、単位時間当たりの賃金が上昇すると利益率が下がると考えられます。ワークライフバランスなどの考え方は分かるものの、企業利益という視点では必ずしもプラスにならないと考えられる取り組みと考えられがちです。多くの企業はそれをコストアップ要因だが時代の風潮だから仕方がないといった説明をすることが多いと思います。「我々も上場企業として○○には積極的に取り組む」といった発言は、暗にコストアップ要因だが仕方ないといった言葉と株主は受け取るわけです。

これに対して永守会長の説明は全く異なります。
「43年前に自宅の納屋で創業し、しばらくは優秀な人材を獲得できなかった。名だたる大手企業に勝つには相手の2倍働くしかなかった。だが売上高が1兆円を超え、優秀な人材も入ってきている。脱皮しないヘビは死ぬといわれる。2020年の残業ゼロを目指して働き方を大転換している。」

「改革はトップダウンで一気にやらなければ効果がない。私が早く帰るように働き方を変え、生産性を上げるために必要な機器やソフトにはどんどん投資をしている。あっという間に残業が3割以上減った。一方で利益は上がっている。浮いた残業代の半分は冬の賞与で還元し、半分で英語や専門分野の教育を充実する。」

この発言の素晴らしいのは、
「生産性を上げるために必要な機器やソフトにはどんどん投資」
①アウトプットを維持しながら残業を減らすために何が必要と考えているのかを明確に示しており、単に精神論ではないこと。
②残業の減少、利益の上昇という結果を示していること。
「浮いた残業代の半分は冬の賞与で還元し、半分で英語や専門分野の教育を充実する」
③次の拡大に向けて、削減できた残業代を原資に、半分を賞与に、残りは語学研修などに使い、人への再投資にも積極的に取り組むという人財に対する投資のあり方を明確に示していることです。

株主から見た場合、残業を減らすことで、半分を賞与に、残りは語学研修などに使うというと、1人あたりへの企業の投資(1人当たりコスト)は変わりません。しかし、その質が変化することによって、短時間で成果を上げるための生産効率のアップの工夫、賞与アップによる従業員満足度の向上、急速にグローバル化が進む企業の中で従業員の語学力向上による従業員のスキルセットの改善によるM&Aや海外展開加速への期待などをイメージすることが出来ます。また、このような分かりやすいメッセージは社外に対してだけでなく従業員にとっても目指すべき方向性が明確と言えるでしょう。

これは、まさに創業者ならではの株主目線のメッセージと言えます。自分がその会社の価値に対してコミットしているのであれば、単にコストアップだけの変化を受け入れるでしょうか。時代の流れだから、規制だからというものではなく、どのようなスタンスでそれを受け入れ、その変化をチャンスに変えていくかという発想は、まさに株主が経営者に求めている発想です。

これは、残業ゼロといった課題だけではなく、ESGやガバナンスなども同様です。
「世の中の変化もあり我々も○○をしなければならない」といった説明ではなく、○○をすることによって、企業価値を上げるという道筋がしっかりと示されることが重要なのです。

また、コメントの中で永守会長は「改革はトップダウンで一気にやらなければ効果がない」とおっしゃっています。これはまさにその通りで、味の素や伊藤忠など成功している企業も積極的なトップの取組みが成果を生んでいます。

「自身も率先して午後7時に退社している」いう発言は、日本電産を知る人にとっては衝撃的です。永守会長といえば、休みは元旦の午前だけ、普段の生活も如何にすべての時間を仕事に費やせるかを考えているという事が、マーケットにも浸透しているからです。その永守会長が毎日午後7時に退社しているとすると、社内の人はその変化を実感し、そこで生まれる時間を企業と自己成長のために如何に使っていくかを真剣に考えると思います。

永守会長の言葉を読むと、トップのメッセージが単純明快であることの重要性が再確認できます。




 

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