株式指標の解説を始める前になぜ株式指標の理解が重要なのかを説明したいと思います。自分が株式投資を始めた当時のことを思い出してみると、会社の事を調べるといい会社かあまり良くない会社かという事は何となくわかるのですが、それでその企業の株が買いなのか売りなのかという事は全く分かりませんでした。そんな時、証券会社のレポートを読んでいると様々な株式指標が使われており、それを根拠に株価の割高・割安と言ったことが評価されていました。はじめてその様なレポートを読むと、なるほどそうなのかと思う様な説明がされています。しかし、同じ銘柄の判断をずっと追い続けてみてください。そうすると多くの銘柄で同じ証券アナリストの判断が大きく変化する事に気付くでしょう。株価は変動するものですから、ベースとなる考え方が変化しなくても割高になったり割安になったりはします。したがって、証券アナリストの判断が変化する事も別に不思議な事ではありません。また、プロであっても業績を読み間違える事はあります。その様な時に判断が変わることは仕方ありません。しかし、問題なのは株価の割高・割安を判断する際に基準としていた、株式指標の基準が変わって投資判断が変えることがある事です。
皆さんはこの様な投資判断を見た事がないでしょうか、「〇〇株式会社はこれまで、過去平均PERの△倍を適用していたが、今後は景気回復局面時の平均PERを適用し□倍とする。したがって、適正株価は◎円から◇円に変更する」。業績の予想も、企業に対する見方も全く変化していないのに突然適正株価が変わる。この様な事が頻発すると何を根拠に株式投資をしてよいのか分らなくなります。ただ、短期の株価変動は利益変動よりもPERなどバリュエーションの変化による影響が大きいために、数か月先の株価を予想しようとすると、どうしてもこの様な表現になってしまう事があるのです。
では、我々は株式投資を行う上でバリュエーションの変化を予想しなければならないのでしょうか。私はそのようには考えていません。むしろバリュエーションの変化を予想するやり方とは一線を画し、企業価値に着目する事が必要だと思っています。
それでは、一般的なバリュエーションには意味がないのでしょうか。その様な事もありません。株式指標のチェックは株価の常識的な適正水準を見る上で大変重要です。ただし、その前提となるのは株式指標を正しく理解しているという事です。正しい理解というのは株式指標の表面的な計算式を理解しているという事ではありません。その計算式の持っている意味。結果として出て来る数値はどの様な特性を持っているのかなどを正確に理解している事が重要なのです。
例えば。PBRは高いと割高、低いと割安と言われています。確かにPBR10倍の企業と1.2倍の企業があれば、1.2倍の企業が割安な事が多いとは思いますが、これもROEなどの水準次第の面もあります。また、PBR1倍割れなので割安という表現が日本ではよく使われていましたが、企業買収を前提としない通常のバリュエーションではPBR1倍割れを根拠に割安とは考えないというのは常識です。歴史的に有効とされる株式指標でも、正しい利用方法や指標としての癖は様々でそれをしっかりと理解し使うことが重要なのです。また、これは株式指標を根拠に投資判断を行う場合と、ポートフォリオ全体の管理指標として指標を用いる場合でも若干異なります。さらに指標の持つ癖は時代によっても変化する場合があり、それは継続的なチェックが必要となります。これらを個人で行うのはかなり困難といえますが、その際にもどの様な事をチェックしておけばよいのかについて解説していきたと思います。
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