なぜリスク管理が重要なのか


ファンドマネージャーとしての経験を考えると、運用パフォーマンスを決める要素には銘柄選択の能力と、リスク管理があると思います。機関投資家のリスク・マネジメントを理解することは、運用機関の資産運用の実態を知る事につながります。機関投資家に運用を委託する人達はこれを理解する事で、運用機関とどの様に付き合うべきかが明らかになると思います。

リスク管理には様々な理論が存在しますが、出来る限り具体事例に基づいて理解する事で、実際に役立つ知識が身に付きます。資産運用を行う上ではリスク管理を行うための様々な定量的な手法が存在します。しかし、実際には定性的に理解をしておくことが極めて有効です。これは、事業会社の運営や個人の資産管理の上でも重要です。

たとえば、皆さんはModern Portfolio Theory(機関投資家の運用の前提となっている現代の投資理論)の前提を疑いなく受け入れていないでしょうか。高名な先生が導いた理論であるからと言って、それをそのまま信じることは、それ自体がリスク管理の面からは問題です。どの様な事でも前提を疑い確認するというのが、リスク管理の第一歩です。リスク・マネジメントを中心とした資産運用の考え方を学ぶことは、幅広いリスクの概念を学ぶことにつながります。資産運用においては、投資リスクだけでなく、戦略リスク、流動性リスク、内部統制ルールなど幅広いリスクを学ぶことが求められます。また、リスクはそれを抑えるだけでなく、コインの裏表の関係にあるリスクをとって、どのようにリターンを得るのかを考えて行くことが重要なのです。つまり、リスクは、それだけを独立させて考えるのではなく、リターンとの関係で理解していく事で本当の意味が理解できるのです。

ポートフォリオマネジメントにおいては、「結果について全く制御が働かない領域を最小化する一方で、ある程度結果を制御できる領域を最大化すること(ピーター・バーンスタイン)」がリターンとの関係で正しいリスク管理といえます。

リスク・マネジメントの始まりは、原因と結果の因果関係を明らかにすることにあります。そのため、ファイナンス理論においては常にリスクとの関係でリターンが語られるわけです。また、この様な考え方は、コーポレートガバナンス・コードで事業会社に求められている適切なリスクテイクそのものです。つまりリスク・マネジメントは、お金を取り扱うビジネスでは常に重要な要素であり、これは投資の場面だけではないのです。事業会社も事業ごとの稼ぎ方との関係で、リスク・マネジメントを実行することが求められています。

リスク・マネジメントは、相対的な概念に基づいており、目的、時間と共に「リスク」は変わります。また、リスクに関わる関係者が多い場合、「リスク」は立場によって異なるものとなります。投資の世界でも、概してリターンとリスクが独立した管理のされ方をされています。しかし、これは誤謬を生みやすく、適切な管理方法ではないのです。リスクを様々なケーススタディーをついて学ぶことはリターンを効率的に得ることにつながり、リスクを最小化して効率的にリターンを得ることは長期的なリターンの拡大に直接つながるのです。




 

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