株主総会のあり方について議論が活発になっています。コーポレートガバナンス・コードでも原則1ー1株主の権利の確保の保有原則②の中で、コーポレートガバナンスの体制が整っている事を条件に総会決議事項の一部を取締役会に委任することが、経営判断の機動性・専門性の確保の観点から望ましい場合があることを考慮に入れるべきだとされました。
コーポレートガバナンス・コードの有識者会議でも日本の上場企業は海外企業に比して幅広い事項を株主総会にかけているという指摘がなされています。実際、一部の企業では「自社株式の取得」「剰余金の処分」などが定款で定めることにより、総会決議事項から取締役会に授権されています。特に「自己株式の取得」は、株主総会決議を待たずに株価の状況などによって機動的に自己株式の取得を決定した方がよいため、多くの上場会社が取締役会に授権する様になっています。また、「剰余金の処分」についても、取締役会決議にすれば期末配当の支払いが総会決議を待たずに、決算日後すみやかに行えるというメリットも指摘されています。しかしながら、基本的に株主権の縮小となる議案に関しては株主からの反対があるため、資本政策、利益還元・配当方針など客観的合理性の担保をどの様に確保するか等が必要とされています。
しかし、この様に海外の株主総会との比較感から日本の株主総会の問題点を考える前に、日米における株主総会の位置づけの差を確認しておきたいと思います。
日本における株主総会は、前田庸「会社法入門」によると、「定時株主総会は、毎事業年度終了後一定の時期に開催されるものであって(296条1項)、貸借対照表および損益計算書の確定、事業報告および計算書類の承認、剰余金配当の決議などが目的とされるが(438条参照)、それと合わせて他の事項(取締役・監査役の選任、定款変更等)を議論してもよい」とされています。
一方、米国における「年次株主総会の主たる目的は、年1回の取締役選出であるが、年次総会においてはいかなる関連事項についても決議する事ができ、通知に記載される目的に限定されていない。実際、改正規範会社法及び大部分の州の制定法は、年次株主総会の招集通知に会議の目的を記載する必要はまったくない。」とされています。なお、デラウエア州法では、”An annual meeting of stockholders shall be held for the election of directors…Any other proper business may be transacted at the annual meeting.” という規定があり、定時株主総会は「取締役の選任」が主たる目的であることが明確になっています。
この様に、日本における株主総会と米国など海外における株主総会では根本となる目的自体に違いがあることが、様々な制度や考え方の違いに繋がっていると考えられます。投資家の立場から見ると株主の権利確保と実効性のある株主総会をおおらかな気持ちで求めています。一方、株主総会を実施している会社側は法的瑕疵のない総会実施を第一義に考えています。この様な根本的な考え方の違い、投資家と会社のスタンスの違いなどを理解し、丁寧にそのギャップを紐解いていく作業が必要なのではないでしょうか。
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