これから、機関投資家が企業を調査するときの調査項目を1つ1つ解説していきます。なぜ、証券会社のアナリストが作成した調査レポートを読むだけではなく、自分自身で調べる事が重要なのでしょうか。これは、多くの調査レポートは基本項目の理解を前提としていますが、実は基本認識が異なる可能性があるまま論旨が展開されているからです。
短期の動きや非常に専門的な事項は、その専門家である証券アナリストの調査に任せても十分なものが得られます。しかし、基本となる認識がズレたままだと、自分自身の投資の軸がふらつき安定した投資が行えなくなるのです。
私は若手のアナリストを指導するときに、少なくとも3ヶ月は証券会社のアナリストレポートを読まない様にと言ってきました。これは、まず自分自身で企業を調べる習慣を付け、情報のアップデートを証券会社のアナリストレポートで行うという事が重要だからです。このレポートを読まれている人は投資を行いたい、どの様に投資をすれば良いのかと思って読まれる方が多いと思います。その様な方々からすると、今すぐ結果の出るやり方が知りたいと思うかもしれません。しかしその様な気持ちが株で損をする最大の理由でもあります。答えよりもそのプロセスを重視することで、自分の見立てが正しかった時も間違っていた時もそれを振り返ることが可能となり、次の投資判断を正確に行えるようになるのです。
長期視点の投資家の調査項目は簡単に言うと企業価値評価の際に用いる評価モデルのインプット項目を埋めるための調査です。「なんだ、モデルのインプット項目か」と思うかもしれません。短期の業績予想を行うために必要な項目は既にIRの場面で答えているのが一般的です。「それが長期になる」と考えると、単に今の調査項目の延長線にあると考えるかもしれません。しかし、四半期の予想や今期来期などある程度、現状のビジネスから予想可能な短期の時間軸と異なり、5年10年先を予想する際に必要な調査項目は、短期の時と大きく異なります。つまり企業の本質的な価値を理解するための項目が中心となって来るのです。したがって、単純に短期のB/S、P/Lを理解しようとするのとは異なり、定性的な部分も含めて企業をより理解する事が必要となります。長期視点の投資家が社史を調べたり、経営者のコメントや経歴などを理解しようとするのはそのためです。
ただ、企業の本質を理解するために、企業を知れば知るほど良いわけではありません。企業調査は必要十分というレベルがあります。必要以上に調査すると必要以上に確信度が高まってしまいます。市場はどんなに突き詰めても不確実性が残ります。過剰な確信は投資判断を冷静に行う上でその妨げになる可能性が高いのです。したがって、自分達が投資を行う上で必要な調査項目は何なのかという事をしっかりと理解し、それを適切に実施していく事が必要となります。必要項目は投資スタイルによっても微妙に異なります。これからお示しする調査項目は、その中での共通項をある程度お示ししたものです。
ご意見ご感想を送信する