COP21「パリ協定」の衝撃  環境目標が資源株に与える影響を考える


2015年12月12日夕刻、パリで開催されていた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)は2週間の交渉の末、世界の気温上昇を2度未満に抑えるための取り組みに合意し、パリ協定を採択しました。世界196カ国の国・地域がすべて、温室効果ガス削減を約束するのは初めて。2020年以降の温暖化対策の法的枠組みとなる協定の一部には法的拘束力があります。

合意の主な内容は下記の様なものです。

  • 温室効果ガス排出量が速やかにピークに達して減り始めるようにする。今世紀後半には温室効果ガスの排出源と吸収源の均衡達成。森林・土壌・海洋が自然に吸収できる量にまで、排出量を2050~2100年の間に減らしていく。
  • 地球の気温上昇を2度より「かなり低く」抑え、5度未満に抑えるための取り組みを推進する。
  • 5年ごとに進展を点検する。
  • 途上国の気候変動対策に先進国が2020年まで年間1000億ドル支援。2020年以降も資金援助を約束する。

気候変動の予想は、CO₂排出量だけで決まるわけではなく、様々な前提の置き方で変わって来ますが、CO₂の排出を抑えることが、先ずは解りやすい目標となります。そのために、CO₂濃度に上限を設け、年間排出量、累積の炭素排出計画などが定められています。また、これは世界的な人口増(2050年の世界人口推計89億人)、中間所得層の増加(2030年までに30億人以上)による電力需要の伸び(例えばインドは今後10年で倍増)などというエネルギー需要増加下において達成しなければならないという難しい課題に取組む事が求められます。

2000年以降、新興国の成長が加速した際に資源価格の上昇が起こりましたが、これはエネルギー需要の拡大という側面に注目した現象でした。一方、今回は環境面の制約から炭素の排出を抑える、つまり使用する化石燃料に制限を付けるという事がテーマとなります。

現在確認されている、化石燃料の埋蔵量は2,800ギガトン(CO₂換算)、推定埋蔵量は11,000ギガトンと言われています。21世紀末までの平均気温の上昇を50%の確率で2℃未満に抑えるためには、2011年〜2050年の累積炭素排出量を1,100ギガトンに抑える必要があるとされています。

ここで資源関連企業、特に化石燃料を保有している企業の企業価値を考えてみたいと思います。

資源を保有している企業の価値は埋蔵量と資源価格をかけて計算することがあります。昔から株式投資を行っている人は、「住友金属鉱山の株価は菱刈金山の金の埋蔵量が〇トンあり、金価格をかけると△の価値があるため、現在の時価総額は割安」などという説明を受けた事もあるのではないでしょうか。

この様な計算方法は分り易いのですが、埋蔵されている資源が使われない可能性があるとすればどうでしょうか?

COP21の合意を前提とすると、現在確認されている化石燃料の埋蔵量は2,800ギガトンの内、2050年までに利用されるのは1,100ギガトンに過ぎません。また、2050年までに炭素排出量を1,100ギガトンに抑えるためには、2014年に32.3ギガトンを2050年までには現在の3分の1程度に抑える必要があり、その後も継続的に低下させていく事が必要です。つまり、これまで懸命に探索を続け保有してきた化石燃料は利用されない可能性が出て来ているのです。

その時に保有している化石燃料の価値は「化石燃料の価格×化石燃料の埋蔵量」で計算できるでしょうか。

需給の悪化は既に燃料価格に織り込まれているのだから、やはり「化石燃料の価格×化石燃料の埋蔵量」で良いのではないかと思われるかもしれません。しかし、そうでないことは簡単な例を考えればすぐに納得できると思います。

例えば、あなたが1000万円の現金が得られる権利を貰ったとします。
現金で1000万円でそれをいつでも使えるとするとその価値は1000万円です。
でも、毎年100万円ずつ、10年間にわたって支払われる権利だとすると、今年使うことが出来るお金は100万円に過ぎず、やはり価値は1000万円の現金よりも低いでしょう。
もし、これが毎年1万円ずつ、1000年間にわたって支払われるとした場合、それに1000万円の価値があると言えるでしょうか?あなたが使うことが出来るお金は数十万円に過ぎないわけで、とても1000万円の価値があるとは感じられないでしょう。

このことを企業や資産の価値を計算するときに用いるディスカウントキャッシュフロー(以下DCF)で考えると下記の様になります。(以下資本コストは5%で計算しました)

① 1000万円の現金
価値は1000万円

② 10年に亘って100万円ずつ
今使えるお金の価値=100万円
1年後に貰えるお金の価値=100万円÷1.05=95.2万円
2年後に貰えるお金の価値=100万円÷(1.05)²=90.7万円
       ・
       ・
       ・
9年後に貰えるお金の価値=100万円÷(1.05)⁹=64.5万円

合計810.8万円

③ 1000年に亘って1万円ずつ
今使えるお金の価値=1万円
1年後に貰えるお金の価値=1万円÷1.05=9523円
2年後に貰えるお金の価値=1万円÷(1.05)²=9070円
       ・
       ・
       ・
200年後に貰えるお金の価値=1万円÷(1.05)¹⁹⁰=1円

となりそれ以降貰えるお金の価値は1円に満たなくなります。

結果として価値の合計は21万円となります。

因みに、10万円ずつ100年に亘ってもらうとすると、現在価値は208万円に過ぎません。

この様に、いくら潜在的に資産があろうと、その価値が実現するタイミングが遅れる事による影響は極めて大きいのです。

資源株の価値を考える時には資源価格以上に、それが実現するタイミングがどうなるのかに注目する必要があるでしょう。




 

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