日本企業は社外取締役の導入には否定的な企業も多かったですが、その数は年々増加しており、会社法改正やコーポレートガバナンス・コードもあり、2015年6月末には東証一部の約95%の企業が社外取締役を導入しています。この様に上場会社に社外取締役がいることは当然となってきたわけですが、そもそもなぜ社外取締役は必要で、経営的にプラスのインパクトはあるのかについて考えてみたいと思います。
定性的な評価は立場によっても様々ですが、まずは、先行事例として米国企業における過去の実証研究から見てみたいと思います。まず、Bhagat and Black (2001) では米国企業を対象に取締役会構成と企業業績の関係についての調査を行い、両者には相関がみられないという事を示しています。この結果を引用して社外取締役は無意味であるという主張がなされることがあります。
次に、社外取締役比率がどの様な要因によって決定されるのかについての分析がBoone(2007)、Coles(2008)、Linck (2008)らによって行われています。これによると、社外取締役の比率はフリーキャッシュフローの水準が高い会社ほど高くなるとしています。
この2つの関係を見るだけでも、Bhagat and Black (2001)の分析結果によって、社外取締役と企業業績は無関係であるという主張が妥当でない事が分ります。なぜならば、社外取締役の決定要因には企業の特性が大きく影響しており、その特性と企業業績に関係がある可能性があるため、単純に社外取締役比率と企業業績を比較しても結論は導けない事が分ります。
では、どの様な社外取締役は企業業績に影響を与えているのでしょうか。Duchin(2010)は2002年のサーベンス・オックスリー法とその後のNYSE・NASDAQで過半数の独立取締役を求める上場規定が制定されたことを利用して社外取締役比率が企業業績に与えた影響を推定しています。この結果を見ると平均的には有意な因果関係がみられなかった一方で、社外取締役が少ない事が望ましいと考えられる企業群が規制対応するために社外取締役を増加させた結果、業績が低下したという結果が出ています。つまり、社外取締役の最適な比率は企業により異なり、企業特性によっては社外取締役比率が半数以下である事が望ましいという事を示しています。
一方、韓国ではBlack and Kim(2012)が、法規制によって韓国企業が法改正によって大規模な上場企業が取締役の半数以上を社外取締役にすることが義務付けられた影響を考察しており、ここでは規制に応じる形で社外取締役の増員を余儀なくされた企業の業績が有意に向上していると結論付けています。
この様に米国では規制による効果が見られず、韓国では規制による効果が見られた背景には、社外取締役の普及状況が影響していると考えられています。つまり、米国では規制前から社外取締役が普及し、多くの企業が自社の特性に合わせる形で最適な人数の社外取締役を選任していたと考えられます。その結果、規制によって少ない人数が良い企業まで社外取締役の数を増やさなければならなかったなどの不都合も生じてしまった訳です。一方、韓国は日本同様、社外取締役の普及が遅れていたため、企業の社外取締役数が過少であったことから、企業業績へのプラスのインパクトがあったと考えられます。
次に日本企業における実証研究を見てみます。社外取締役に関する実証分析は2015年のコード導入によりどの様な効果があったかという研究が待たれるところですが、「日本企業による社外取締役の導入の決定要因とその効果について」齋藤(2011)は非常に興味深い結果を示しています。分析結果によると日本企業の取締役会は取締役会の役割を効果的に果たすための構成とはなっていないことを示しています。例えばフリーキャッシュフローが潤沢な会社は経営者の監視の必要性が高く、取締役会の独立性が求められますが、分析結果ではその様な企業ほど社外取締役の比率が低く取締役会の独立性が低くなっています。一方、R&D投資が多い企業は事業の専門性が高く、社外取締役の数は低めに抑えられるべきと考えられていますが、そういった企業ほど社外取締役の比率が高いという結果になっています。この結果は米国での実証結果と大きく異なっています。これは、日本企業が社外取締役の事を真剣に考えて来なかった事もあるかも知れませんが、基本的には企業のグローバル化がどれだけ進んでいるかや、外国人投資家との対話の機会がどれだけあったかなどにも影響を受けている可能性があります。
また、齋藤(2010)は、企業特性が近い企業で社外取締役を導入した企業としない企業を比較し、導入した企業が導入していない企業よりも業績が向上している事を示しています。ただし、その効果は導入時に限られ、導入済みの企業が増員しても有意な効果は確認できなかったとしています。同様の研究を行った内田(2012)、宮島・小川(2012)でも社外取締役比率と企業業績の間には正の相関があるとしています。
これらの、分析を見てみると社外取締役の選任により企業業績にはなんらかのインパクトがあります。しかしながら、その比率に関しては慎重に検討する必要があり、自社にとってどの様な社外取締役比率が最適かという事を真剣に検討して示す事が必要であるという事が言えそうです。
そのように考えると資生堂のコーポレートガバナンス報告書におけるコメントは非常に見識が高いと言えます。
<原則4-8:取締役会における社外取締役の比率に対する考え方およびその実現に向けた取り組み方針>
2015年6月末日現在、当社の取締役会は業務執行取締役3名と独立社外取締役3名の計6名で構成されており、取締役会における独立社外取締役の構成比率は50%です。
ただし、当社では、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役の選任を必要と考えるかどうかについて、ならびに必要と考える場合の取組み方針について、現時点では結論を持つに至っていません。取締役会における独立社外取締役の人数比率については、取締役会を監督機能に特化した機関として位置付けるのか、または業務執行機能の相当部分を担う機関として位置付けるのかの判断に直結する事項であると考えています。
指名委員会等設置会社または監査等委員会設置会社のような委員会型の機関設計と、監査役会設置会社としての機関設計のどちらを採用するのかという議論にもつながるものであることから、現在慎重に検討を進めています。
当社としての見解・方針が定まった時点で、その内容をお知らせします。
(資生堂:コーポレートガバナンス報告書より)
今後、社外取締役比率については様々な議論がなされると思いますが、最適な社外取締役比率は各社の状況により異なります。基本的には安定している企業ほど社外取締役の比率は高い事が望ましいと考えられます。新興企業の様に事業の専門性が高く投資案件が豊富な企業や、R&Dの比率が高く技術的に高度な経営判断が必要となる企業は社外取締役の比率は一定以下にとどめるべきと考えられます。逆に、歴史がある大手企業は経営の透明性を高め社外取締役が経営陣を監視できる体制が望ましいと考えられるのです。
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