欧米における社外取締役


英国

 現行の会社法は2006年に制定されたものですが、経営機構とその権限分配に関する多くの事項が各社の定款などに委ねられていることが特徴とされています。ただし、株主総会や取締役に関しては詳しく規定されているのに対して、取締役会に関する条項は多くありません。ただし、会社法の中に国務大臣がその策定権限を持っているモデル定款が示されており、その中に取締役会に関する条項があります。大企業の多くは、そのモデル定款を参考にして自前の定款を策定しています。

 非業務執行取締役に関してはUKコーポレートガバナンス・コードの中で規定されています。これは上場企業に適用されるものですが、その中で中小規模の上場会社以外の場合には、取締役会議長を除いて、独立性を有する非業務執行取締役がボードの半数以上であるべきであると述べられています。また、中小規模の上場会社の場合は、少なくとも2名の独立非業務執行取締役が必要であるとしています。

 独立性の有無に関しては、当該会社のボードが判断すべきとされていますが、雇用関係、ビジネス上の関係、近親者などの形式要件の基準が示されています。また、形式要件を外れる場合でも、取締役会が当該取締役は独立性を有すると判断する場合には、その理由の開示が求められています。

 独立非業務執行取締役はCEOの監視・牽制という役割が期待されていますが、UKのコーポレートガバナンス・コードでは、むしを助言にウェイトが置かれています。キャドベリーは「取締役会の目的はCEOを可能な限り支援する事であり、その具体的な支援としては、CEOと忌憚のない議論の場を持つことである」と述べています。また「CEOは取締役会を、監視や報酬の支払い決定者としてではなく、継続的に利用可能な相談と支援の場とみなすべきである」という考えが根本的にあり、両者が健全な緊張関係を持ちつつも対立関係にならない事が重要と考えられます。

 また、現行の会社法172において会社を成功に導くための取締役の義務が規定されています。取締役は社員・株主のために会社の成功を最も推進すると考える方法を推進しなければなりませんが、具体的に6点を配慮すべきとしています。①当該意思決定の長期的な結果、②従業員の利益、②取引先・顧客とのビジネス関係促進、④事業が地域・社会・環境に与えるインパクト、⑤レピュテ―ション、⑥行為の公正性。

 会社が株主利益促進のために最善の方法を採るべきなのは当然ですが、その際に他のステークホルダーの利益を配慮しなければならないという事を明記したことの意義は小さくないと言われています。

米国

 米国では、会社は州の法律によって規定されており、州が会社法を制定しています。一方、1930年代に、大恐慌の経験を踏まえて連邦証券規制の整備(1933年証券法、1934年証券取引所法)が行われ、株式を公開している会社は州の会社法と連邦証券規制の二重の管轄下にあります。

 基本的には、会社運営の内部事項は州の会社法が適用されており、ディスクローズに関するものについては連邦証券規制という様な棲み分けが行われています。

 米国でコーポレートガバナンスの意識が高まったのは1970年代と言われています。その大きなきっかけとなったのは、ペン・セントラル鉄道(当時は最大手の鉄道会社の1つ)の突然の倒産に端を発するCP市場危機と言われています。この倒産は議会で公聴会が開かれるなど大きな社会的関心を集め、その取締役会は「眠っていた取締役会」として大企業の取締役会の実情に関する特集記事が新聞・雑誌に掲載され、様々な実証研究が行われました。学者サイドからは様々な取締役会の改革案が提唱され、その実効性確保のため社外取締役の比率引き上げが必要であるとの意見が強まりました。

SECのコーポレートガバナンスに関する公聴会などを経て、1977年にNYSEが上場会社は取締役会の下部機構として監査委員会を設置すべきと上場規則に規定しました。

 また、アメリカ法律協会(ALI)でも、1978年以降、様々な議論と紆余曲折を経て1992年に報告書がまとめられ、大規模な公開会社に対しては、取締役の過半数は独立取締役である事および監査委員会の設置が義務付けられ、指名委員会と報酬委員会の設置が推奨されました。また、それ以外の会社についても3名以上の独立取締役の設置が義務付けられ、監査委員会の設置が義務付けられました。

 2000年代に入ると、エンロン、ワールドコムなどの破綻があり、SOX報がまとめられました。コーポレートガバナンスに関しては、SECの監督権を経て証券取引所などの規則によって監査委員会の設定などが求められました。また、2003年NYSEは取締役の過半数を独立取締役にする事や、原則として独立取締役のみで構成される監査・指名・報酬の委員会設置を求める規制を設けています。

 米国ではそもそも独立取締役の比率は上昇していたのですが、コーポレートガバナンスの強化を受けての規制は、社外取締役よりも監査委員会の設置を優先してきたと言えます。これは、会計情報の開示における信頼性が重視されており、その様な専門性の高い内容は取締役会よりも監査委員会の設置が望ましいと考えられたからだと考えられます。

 米国では1950年代以降、趨勢的に独立取締役が増加していましたが1970年以降その動きは加速しています。また、その中で候補者の独立性が重視される様になってきました。これは、当初は経営者も独立取締役の存在に抵抗を示したわけですが、①敵対的公開買い付けに対するバッファーとしての役割、②企業不祥事発生時における政府の介入の代替として、独立性が高い人物をボードに受け入れることが必要であるという認識からだと言われています。

 その様な背景から、取締役会の機能における助言と監視では、徐々に監視が重視される様になってきています。特に株主代表訴訟における特別委員会(社外取締役によって構成)はその独立性が十分かどうかは、裁判所における結論の妥当性評価で考慮されるため重要といえます。

ドイツ

 ドイツの経営機構の特徴は監査役会と取締役会の二層構造にあります。取締役は監査役会で選任され、取締役会が会社経営に当たるものの、一定の重要取引に関しては監査役会の承認を得る必要があります。また、その監査役会のメンバーは一部を従業員が選任しています(従業員2000人以上は半数、500名以上2000人以下は3分の1を従業員側が選任)。

 したがって、ドイツでは独立性の議論の場合監査役会のメンバーの独立性が議論されています。例えば、ビジネス上の関係があった者や支配株主はそれに該当しないとしています。また、当該会社の取締役であったものは監査役会のメンバーの内2名以内とするという様に、コーポレートガバナンス・コードの中で規定されています。

 また、共同決定法などの適用がある上場会社の場合は、女性または男性の比率が30%を下回って歯ならないなど、監査役会が取締役を選任するにあたっては多様性を尊重することを求めています。

フランス

 フランスでは1980年後半以降、外国人機関投資家の持株比率の上昇に伴い、コーポレートガバナンスの議論が高まりました。

 1995年にヴィエノ委員会がまとめた報告書では、社外取締役の役割重視が強調されました。その後も、海外の状況も踏まえてコードの改正が行われており、求められる社外取締役の比率は上昇してきています。

 フランスの特徴は支配的な株主が存在する会社とそれ以外の会社で基準を分けている事です。支配的な株主がいる会社では、3分の1以上、いない会社では半数以上の社外取締役が求められています。多様性に関しては、ボードに占める女性の割合に数値目標を示し一定期間内に達成すべきとしています。

 このように、社外取締役のあり方については、その比率や独立性などが国際比較される傾向にありますが、どの様なプロセスを経て現在の制度になっているかを理解し、今後のあり方を検討していく事が大切だと思います。




 

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