投資の予測精度とパフォーマンス


「投資判断がよく当たる人と、そこそこ当たる人がいます。ではどちらのパフォーマンスが良いでしょうか?」
実は、投資の予測精度が投資のパフォーマンスに直接つながるわけではありません。

仮に8割の確率で当たる投資家がいたとしても、その人が1銘柄を1回だけ買ったとすると、儲かるか儲からないかは運しだい。つまり偶然に依存します。しかしながら、6割の確率でしか当たらない投資家でも、100回投資を行ったとすると、勝率分のリターンが得られると考えられます。これは運ではなく確率である程度予想可能であり、偶然の要素は小さくなります。

言っていることが正しく、よく相場を理解している人は、そうでない人よりも稼いでいるのではないかというイメージを持つと思います。しかしながら、実際には勝率と必要な投資判断回数などの関係を理解していることがパフォーマンスを上げる上では決定的に重要となります。

アクティブ運用の教科書ではポートフォリオのパフォーマンスは次の3つの要素によって決定されるとされています。
①IC(Information Coefficient):情報係数と呼ばれ運用者によるアクティブリターンの予測値と実現したリターンの相関係数。つまり運用者の予測能力です。
②TC(Transfer Coefficient):個々の銘柄のアクティブリターンの予測値と、ポートフォリオにおけるアクティブ・ウェイトの相関係数。つまり運用者の予測がどの程度ポートフォリオに反映されているかを現しています。
③BR(Breath):独立したベット(投資判断)の数。

これによると、予測精度はもちろん重要な要素ですが、それがポートフォリオにしっかりと反映されていることが重要です。さらに、投資判断回数が重要となるわけです。これはある意味で当たり前のように思えるわけですが、実際のポートフォリオマネジメントの場面で忠実に実行することは容易ではありません。

例えば、アクティブリターンと言ってもどれくらいの期間でのリターンをイメージしてリサーチをしているのかという事があります。3年のリターンであれば、1つの投資判断を行った後、平均で3年程度保有するわけですから、1単位の投資ウェイトに対する回転率は年間33%となります。一方、1週間のリターンをイメージしている人は1単位のウェイトに対して年間に52回転することになり、投資判断回数による期待リターンは増加します。しかしながら、一般的には短いタームの予測には理論の裏付けが乏しく、長期投資に比べて期待リターン・予測精度ともに小さくなります。

次に銘柄数との関係ですが、長期での超過収益をイメージした場合、どうしても保有期間が長くなりますから、投資判断回数が減少します。そのことはある程度の銘柄分散によって判断回数の部分を上げていくことが必要となります。しかしながら、長期で確信を持てる銘柄を数多く上げられる運用者は少なく、銘柄数を増やし過ぎると、予測精度自体が低下しており、またポートフォリオへのアクティブ・ウェイトが十分に確保できていない可能性が生じます。つまりこれらのファクターはトレードオフになっており、何が最適かというのは自分の投資スタイル、予測精度などのスキルによっても大きく変わるのです。また、機関投資家の場合にはファンド残高による影響も大きくなります。

ただ言えることは、自分が何を目指してどのような投資を行える能力を持っているのかという事を正確に理解しておくことが重要だという事です。これが分かっていれば、ある程度論理的に最適なポートフォリオマネジメントのスタイルが見つかります。しかし、それを理解せずに運用しているとポートフォリオマネジメントの適格性に欠けるためどうしても安定的なパフォーマンスが出せなくなります。

ポートフォリオのマネジメント方法については、いろいろな投資家が自分のやり方を披露していますが、それを見る際には、自分の持つ能力との差を意識し、そのやり方が自分にとっても最適かという事を問うことが必要です。最適なポートフォリオマネジメントは、前提となるリソースによって大きく異なるのです。




 

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