粗利率


企業の損益計算書を見ると様々な利益・利益率が出てきます。どこに最も着目するかは投資家によっても異なり、また使い方も異なるのですが、今回は粗利率(売上高総利益率)について解説します。

投資家は企業の競争力を見るための重要な指標として粗利率を確認しています。なぜならば、様々な利益率は損益計算書の下の方に行くにしたがって、企業が調整できる要素が増えてくるからです。営業利益率は減価償却費を減らすことでも調整できますし、一時的には人件費を削減する事によっても達成できます。純利益の段階になると特別損益の影響も受けます。つまり粗利率は純粋な企業の競争力の変化を表しやすいのに対して、そこから企業が調整する要素が増えてくる損益計算書の下の方の利益になるにしたがって、企業の「意思」を表すものになっている訳です。

もちろん、景気敏感な株などで、会社の意思で調整要素が大きい事が悪いわけではありません。考え方によっては費用の柔軟性が図られていると捉えられるものもあります。また、粗利率自体も景気変動の影響を強く受ける場合もあります。それでも、投資家にとって粗利率は企業の競争力を示す有効な指標としてこの指標の動きを注意深く見守っているのです。

また、投資家は単年度の動きではなく長期のトレンドでこの指標を見ています。また、粗利率の内訳を見ることで、その会社の構造変化を見ていく事もできます。例えば、建設業は完成工事粗利率、開発事業等粗利率、全体の粗利率という形で分けて開示を行っています。これを見ると何によって現在の利益率が改善しているのか悪化しているのかという事が分ります。

大手ゼネノンは2016年3月期決算の中間決算発表時に大幅な通期業績予想の上方修正を行っています。これをどの様に捉えているかは投資家によって異なりますが、長期投資家から見ると中期的な完成工事粗利率改善の結果と捉えたと思います。建設工事の利益率は人件費の高騰、資材価格の上昇下落などがその変動要因として有ります。しかし、粗利率の改善トレンドがはっきりしている事は、外部環境だけではありません。東京オリンピックや東北の復興など多くの案件がある中、従来ですとシェア争いに終始し利益なき繁忙に陥っていた可能性もあるわけですが、今回はしっかりと選別受注を行っており、コストの上昇を上回る建設単価の引上げが実現していることが確認できます。

長期投資家は一般的に、1回1回の決算ではなく、この様なトレンドを確認しています。景気の影響を受けやすい産業であるため、今後も利益の上昇下落はあるわけですが、長期のトレンドを確認しておくと、次のサイクルに入った時のピーク・ボトムのイメージもつけやすくなるのです。



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