ドル・コスト投資での株式投資信託の選び方


「ドル・コスト平均法」のエッセイに関して、「実際にドル・コスト投資の対象として、投資信託の選択をする際にアクティブファンドとインデックスファンドの比較はどのような観点から比較検討したら良いのでしょうか?」という質問をいただきました。

元アクティブファンドのファンドマネージャーとしては、もちろんアクティブファンドでと言いたいとことですが、客観的にどのような観点でファンドを比較すれば良いのかについて、私の考え方を述べさせていただきたいと思います。

まず、よく知られている事実としてアクティブファンドでインデックスを上回るパフォーマンスを上げているファンドは少ないということがあります。これは市場が効率的でなかなか他人を出し抜いて勝つことは難しいということもあります。ただ、勝つと言ってもビックリするようなパフォーマンスが求められているわけではなく、市場よりも手数料分高いパフォーマンスを上げることが出来るかというそれ程高くない目標すら達成しているファンドが少ないというのはやや情けない事実ともいえます。
では、なぜアクティブファンドのマネージャーはパフォーマンスを上げていないのか、またごく一部ですが勝ち続けているファンドマネージャーはなぜ勝ち続けているのかという事が解れば、良いアクティブファンドを選ぶことが出来るかもしれません。
一方、それを見つけることが出来ない場合には、なんといってもコストが第一です。出来るだけ保有コストが低いインデックスあるいは一定のルールで運用されているファンド(ファンダメンタルズインデックスやスタイルインデックス連動ファンドなどが一般的)を選ぶようにしてください。

では、アクティブファンドを選ぶ際にはどのような注意をすればよいのでしょうか?まずは、以下のポイントで投資するファンドを見てみてください。

①ファンドの残高
日本市場では、流動性の問題からファンド残高が大きいファンドはどうしても市場全体の動きとあまり変わらないパフォーマンスしか上げられていません。ファンド残高が3,000億円を超えているファンドはベンチマークに対して超過リターンを得ることは出来ていても大きな差とまでは言えないものが大半です。年金ファンドなどでは、その程度の超過リターンでも手数料が低いために優れているとされる場合もありますが、投資信託の手数料に見合う超過収益とは言い難いのではないでしょうか。運用会社のビジネスから考えると困った商品なのですが、残高が数十億から数百億のファンドの中に隠れた高利回りファンドがあります。

②運用目標
運用会社内での目標としてはベンチマーク(典型的にはTOPIX配当込み等)を上回るリターンとなっています。これは、インデックスファンドを選ぶかアクティブファンドを選ぶかという消費者の考え方とも合致する部分です。ただ、投資信託の手数料に見合うパフォーマンスを上げようとすると、ベンチマークから大きくかい離したパフォーマンスを上げる必要があります。その場合、ファンドが超過収益を上げる目標期間が短期的すぎるとファンドのスタイルがローテーションしやすくなります。日本市場の流動性を考えるとそのようなファンドが長期的にパフォーマンスを上げることは難しいと考えられます。運用目標が長期で設定され運用スタイルがはっきりしており、長期では超過収益があるものの、年度ごとで見るとそれなりにバラつきがあるファンドの方が長期投資の対象としては優位といえるでしょう。ただし、これは消費者からは解りにくい部分です。

③保有銘柄数・保有比率上位銘柄
ファンドの保有銘柄数は目標とする超過収益の大きさを考える上で重要です。一般的にプロのファンドマネージャーが確信をもって保有している銘柄の上位20銘柄でベンチマークのパフォーマンスを下回っていることは稀です。しかしながら、多くのファンドマネージャーはそれ以外に保有している銘柄が多いために、超過収益を少しずつ失い、結果として超過収益が小さくなってしまいます。これは、ファンド残高と流動性の問題、短期的なファンドの収益の振れを小さくするためのリスク管理、運用目標の期間などによって銘柄数を増やしてしまうために生じます。外部から見た場合の目安としてファンドの銘柄数が70銘柄以下であるかどうかを確認してみると良いでしょう。また100銘柄を超えると、よほどスタイルに偏りがない限り超過収益は大きなものにならないと考えてよいでしょう。
次に、保有比率上位(本来はベンチマークの比率に対するウェイトが良い)の銘柄です。ここに皆さんが良く知っている銘柄が並ぶファンドも避けた方が良いでしょう。このようなファンドはインデックスとの連動を強く意識しており、超過収益の幅はあまり大きくないと考えられます。
さて、ここで保有銘柄数と保有比率上位銘柄を並べて書いたのには意味があります。これはそれぞれ例外があるからです。まず、保有銘柄数では70銘柄以下が目安と書きましたが、中小型だけの銘柄を保有しているファンドなどはその例外となり、銘柄数が多くてもそれほど問題ではありません。ただ、その場合は保有比率上位銘柄を見ると皆さんがご存じない銘柄が並ぶことになります。それらはプロの発見能力があるからこそ出来る運用の1つです。
次に保有比率上位銘柄で知っている銘柄だけが並ぶファンドですが、この場合も銘柄数が絞り込まれている場合には問題ありません。これは良く知られている銘柄の中でもファンドマネージャーが厳選した銘柄だけを保有しているからです。
つまり、長期で十分な超過リターンが期待できるファンドは保有銘柄数か保有比率上位銘柄のどちらかで何らかの特徴があるファンドです。

④ファンドの運用年数
絶対に避けるべきと考えられる投資として新規募集のファンドというのがあります。特に大手証券会社で発売されるファンドでは強力な販売力の結果、設定時に多くの資金が集まります。運用会社としてはありがたいことなのですが、結果として販売当初が残高のピークとなり後は解約が続くため残高は減少の一途となります。
ファンドマネージャーから見るとファンドを作るために多大なコストをかけて銘柄組み入れを行い、その後は自分が買った銘柄をひたすら売るという事になるわけです。急激なファンド残高の増減はパフォーマンスを着実に劣化させます。投資するファンドがそのような状態にないことは重要なチェックポイントとなります。ファンドに十分な運用年数があり、ファンドの残高が安定しているという事は投資にあたっての重要な条件です。

さて余談ですが、最近理想的な動きをしているのは直販の独立系投資信託です。これらのファンドは個人投資家がドル・コスト的に毎月購入することもあり、残高が安定的に増加しています。こういったファンドは常に自分たちの保有銘柄を買い増せるという点で優位にあります。また、購入している投資家がそのコンセプトに賛同していることもあり、相場が低迷するほど資金流入があります。このような資金の動きは常にファンドのパフォーマンスに優位に働きやすいといえるでしょう。また、運用目標もはっきりしており、長期で高いパフォーマンスが出せるための条件は整っています。今後はその増え続ける残高の下でパフォーマンスを継続できるかが注目点となるでしょう。

ここまで、長期でドル・コスト平均投資を行う際に、どのアクティブファンドを選ぶポイントを書いてきました。これはドル・コストで買わない場合でも基本的に同じですが、短期で相場を張るのであればそれこそアクティブよりはインデックスを買うべきです。また、短期的に投資したいテーマがありテーマファンドを買うのであれば、自分で個別銘柄を買った方が良いと考えられます。投資信託を買う場合は、コンセプト自体が優れており、個人では継続的に行うことが難しいことを実現できるファンドでなければ意味がありません。そのようなファンドがない場合には、コストで勝るインデックスファンドに投資する方が合理的といえるでしょう。

さて、インデックスファンドに関しても、従来の日経平均・TOPIXといったものだけでないファンドが出てきています。典型的にはファンダメンタルズインデックスと言われる指標に連動させたファンドです。日経平均は、値がさ株の影響を受けやすいなどの特徴があります。またTOPIXの場合には東証一部の全銘柄を対象にしているため、長期的な投資対象としては相応しくないと考えられる銘柄(例えば一時的に仕手化してファンダメンタルズから大きくかい離している銘柄や、長期的に利益をほとんど出していない銘柄など)も含まれます。ファンドメンタルズインデックスに連動させるファンドはそのような銘柄の影響を極力小さくするために開発されており、長期的には市場インデックスを上回るとされています。このようなファンドもインデックスファンドの一部であるため、その中で低コストのファンドを選んでも良いかもしれません。

運用期間が長期になればなるほど、毎年かかるコストの問題は重要です。長期投資するファンドを選ぶ際にはコストに徹底的に拘り、アクティブファンドを投資する場合にはコストに見合うリターンが期待できるのかという視点で商品を見極めることが重要です。




 

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